朝目覚めると俺の横にはセシルがいて、彼はまだすやすや眠っていた。
いつも俺より先に起きるのに珍しい。
昨夜は持久戦だったから仕方ないのかもしれないが。
すまん、セシル、腹が減った。
などと言って起こす気はなかった。
「でも、なんか変だぞ・・・?」
愛らしいセシルの寝顔を見ていて、俺は何かに気付いた。
・・・愛らしすぎる。
7歳くらいに見えるのは気のせいか。
俺は寝惚けているのかも知れない。
「セシル、起きろ」
「・・・・うん?」
懐かしい変声期前の声がした。
のっそりと起き上がったセシルは、紛れもなく7歳のころの姿。
小さな手でぐりぐりと目をこすっている。
あくびをしたら乳歯がのぞいた。
「・・・どうしたの?カイン、変な顔」
「お前こそどうしたの」
「あれ・・・ぼく・・・・どうしたの・・・?」
寝ぼけたトークは寝ぼけてる間しか続かなかった。
「どうゆうことよ、これっ。ぼくは成人男子だよっ。もう23なのに!」
うちでの小づちで自分の頭を殴り続けるセシルを遠い目で見つめる俺。
これはどういうことだろう。
「どういうことでもいい、可愛ければ」
結論が出るのは早かった。
「セシル、とにかく着替えろ。そのパジャマぶかぶかじゃないか」
俺が選んだ白いパジャマの下はすでに脱げていて、上は半分ずり落ちて肩が出ていた。
振り向いた彼の頬はバラ色で目は潤んでいる。
か、可愛い。
「おじさんと一緒に買い物に行こう」
・・・ダメだ、自分を止められそうにない。
「坊やには男の子用がありますが・・・」
「いや、こっちがいい」
「・・・ちょっとコラ、カイン、何を選んでる」
ちいさいセシルには見えない所でやりとり。
セーラー服。
ブレザー。
ウサギのしっぽがついたブルマー。
羽の生えた蜂の着ぐるみ。
涙が出るほど楽しい。
ああ、帰ったらどれから着せよう。
帰り道、セシルが道具を売る露店に行くおねだりをした。
「おしゃぶりかい、セシルたん」
人格が崩壊気味の俺。
「いらっしゃいませ、坊や。何をお探しですか?」
「いやあ、このごろ腰痛が来ててね、滋養強壮に効くって言う新発売のメガポーションを試してみたいんだよ。」
セシルは長い専業主夫生活ですっかり所帯じみていた。
「・・・坊やには効きすぎるかもしれないけど・・・」
けげんな顔つきになった店の主人が、青いビンを渡す。
「おお、これこれ」
「やめろセシル、その姿でオッサン飲みは・・・!」
往来で腰に手を当ててメガポーションを一気飲みする7歳児。
「う・・・っ」
「どうしましたお客さん!」
「どうしたの。ぼうや!」
露天のまわりに人だかりができはじめる。
ガチャンと音を立てて、セシルの手から滑り落ちたビンが割れた。
「オヤジ、セシルに何を渡した!」
「メガポーションですよ、ちょっと賞味期限切れてたけど・・・」
「あっ・・・やだ・・・っ」
セシルの手足が伸びていき、買ったばかりの少年用の服が破れる。
「ええ・・・っ!?なんて素敵な展開に・・・!」
「何言ってんのカイン・・・っく、苦しい・・・お尻が・・・っ」
すでにぴちぴちの短パンを何とか脱ごうともがくセシル。
「破って!早くー!」
「な、何を破るんだ??」
「ぱんつー!」
後から考えると普段のセシルからは絶対に聞けないセリフだったが、その時の俺は動転していたので、おろおろするばかりだった。
「いや・・・っ」
びり。
ぱんつが破れた。
「み、見ないでえええ」
布切れを集めて何かを隠そうとするセシル。
だが、通行人は容赦なかった。
「きゃー」
「うおー」
乙女の悲鳴と腐女子の歓声。
「カイン、何か着るもの!着るものを!」
「はっ・・・!そうだ、ブルマーが・・・!!」
この後、セシルは1ヶ月ほど俺の前から姿を消した。