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さらにあれから2年の歳月が経った。
ガストラ皇帝は満悦している。
近ごろ台頭してきたリターナーのスパイが城内に潜入しているという疑惑で長らく頭を悩ませてきたが、
そんな悩みすら強大な魔導の力の前では小さなことに思われた。
「可能なだけ多くの抽出体を集めろ。幻獣は殺してもかまわん。」
幻獣がある種の音律と交感することが分かってから、魔導研究所は活気づいていた。
シドが設計した特殊なビーカーが増設されていく。
今はまだ収容所で震えている幻獣たちも、やがてこのガラスの器の中で死ぬまで子守唄を聴くことになるのだ。
「最後のビーカーは子供サイズでいいぞ」
皇帝が笑いながら言う。
魔導の力を機械に注入することに成功し、小さな町を一晩で陥落させたばかりだった。
「人体への注入はいつから始められるんだ、シド博士」
「すぐにでも」
ガストラ皇帝の瞳が、膨らみ続ける野心にあやしく光る。
爆音が響いたのはその直後であった。
「リターナーの襲撃です!」
「な・・・!」
警備の最も手薄な通路から鬨の声が上がり、現実に引き戻された。
「魔導研究所を狙え!この奥だ!」
見る限りそれほど大きな部隊ではなかった。10数名といったところだろう。
地下道を通らなければ、警備をの目を盗んでこんな奥まった場所まで入り込めまい。
しかし、ベクタ城の地下に入り組んだ通路があることを知っているのは、帝国内部でもごく限られた者たちだけだ。
「やはりスパイがいる・・・」皇帝は自ら剣を握って、リターナーの部隊を追った。
周到な計画だったらしく次々にビーカーが破壊され、もうもうと立ち込めた煙が視野を奪う。
煙の中から声がした。
「機械を壊すだけじゃダメだ、バナン。幻獣を逃がさないと」
「幻獣が起きない。重すぎるよケフカ」
「・・・ティナだけでも外に」
「何だと・・・・?」
魔導研究所の裏口に程近い地下道への入り口でようやく、リターナーの一味を見つけた。
幻獣の多くが逃げ出したり運び出されようとしている。
ガストラ皇帝は自分の目と耳を疑っていた。
先導している男は自分の息子だった。
息子は煙の中で父親の姿を見つけても逃げなかった。
「ケフカ、お前が・・・・」
「早く逃げろバナン」
リターナーのリーダーがケフカに言われるまま地下道に向かう。
「させるか・・・!」
皇帝が広刃の剣を引き抜くと、それまで小鹿のように無能だと思っていた息子も細身の長剣をかまえた。