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ガストラ皇帝は、医師団の話を深刻に捉えていた。
「では、私にはもう子供は望めないと?」
「先の戦争で患われた熱病の影響です」
「しかし、私には世継ぎがいない」
「1人いませんでしたか?たしか・・・」
「あ、アレのこと?」
若気の至りでオペラ女優との間に作ってしまったアレのことを皇帝はふと思い出した。
・・・アレは今どこで何をしているのだろう?
時はガストラ皇帝29歳、「アレ」ことケフカ・パラッツォ14歳。
「フィリート 天翔ける麗わしき翼の女王 美しき鳥の一族よ」
オペラ劇場の舞台の上で希代の天才ソリストが絶叫している。
少なくともガストラ皇帝の耳には絶叫に聴こえた。
「実にみっともない姿だ」
観客がうっとりと見惚れるその少年は年のわりに小さく痩せており、花のような顔は少女にしか見えない。
「彼はこのソプラノの声を保つために去勢しているのか?」
横に座る支配人に小さく尋ねる。
もしそうだとしたら、彼のオペラ劇場訪問は全くのむだ足だった。
「いいえ、ケフカは正真正銘の男です。変声期に入ったら人気も落ちるでしょうなあ」
まさか自分の息子がオペラスターになっているとは。
母親には月々養育費を払ってきたが、子供がどうなっているかには全く興味がなかったのだ。
ガストラ皇帝に誇らしい気持ちなど微塵も生まれなかった。
あのナヨナヨ男に今から帝王教育を始めるとして、ものになるのは何年後だろう・・・。
(2008.8.19)
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『エルリック・サーガ』より一部抜粋(歌詞の部分です)