Bカインによるセシルの成長日記

 

3月1日

 

そういうわけで、俺は野生動物を飼い始めた。

俺の屋敷はバロンの外れにあって、あまり人の行き来がない。

 

もともと古い建物で、両親を亡くしてからは使用人も少なく手入れは怠られている。

地元民が幽霊屋敷と呼んで恐れる所以だ。

 

最近では、夜な夜な遠吠えするセシルのせいでますます人が寄り付かなくなった。

幼なじみのローザすら俺を避ける。

 

今日は仕事が休みだったので、思い切ってセシルを洗ってやろうと思った。

 

噛まれること17回。

 

ごわごわしたこきたない髪をばっさり切ったところで今日はあきらめた。

切った大量の髪を水で洗ったら銀色をしていた。

 

あんまり綺麗だったので束にして箱に入れておいた。

 

 

 

3月11日

 

遠征から帰ると、屋敷の使用人たちがいなくなっていた。

応接間のテーブルの上に全員分の辞表が置かれていた。

 

10日近くもエサを与えられていないセシルは馬小屋のすみに倒れていて、虫の息だった。

 

抱き上げてもピクリとも動かないので、鎖を外して屋敷に入れた。

 

以下、セシルの所見。

 

年齢はおそらく10代の半ばの少年。

俺と同じくらいか?

 

風呂場で2時間かけて洗った結果、俺達と同じ人種であるようだ。

鎖でつないでいた辺りをかきむしったらしく、そこから酷い皮膚病ができ、一部が潰瘍化している。

 

4本足で行動していたらしく、地面に当たる手のひらとヒザの部分が硬化していて、腕と足は真っ直ぐ伸びない。

ガリガリにやせているが、ドロを落とすと綺麗な顔をしていた。

 

とりあえず傷口を消毒して、薬を塗りこんでおいた。

 

運がよければ助かるだろう。

 

 

3月12日

 

セシルの意識は戻らないが、水を飲ませることができた。

普通に飲まそうとしても無理だったので、かさかさの唇に指で水を塗りつけてやったら、彼は無意識のまま俺の指を両手で掴んで吸い始めた。

痛いくらい全力でチューチューと。

 

指を伝わらせて水を吸わせることに成功。

授乳期は人間が育てたのだろう。

 

 

 

3月15日

 

仕事から帰ると、部屋からセシルがいなくなっていた。

せいせいしたような寂しいような。

 

夜中まで起きて待っていたが、セシルは帰って来なかった。

どこかの森に帰ったのだろうか?

彼は森にいたほうが幸せだったのだろうか?

 

 

3月16日

 

早朝にバロンの町が騒がしいので見に行ったら、セシルが民家のニワトリ小屋を荒らしていた。

 

思いのほか近くにいた。

 

家の主は得体の知れない侵入者に怯えきっており、家から出てこようとしない。

 

セシルは生ニワトリを3羽ほど平らげて、小屋の中で寝ていた。

生き残ったあわれなニワトリたちは一箇所に固まって震えていた。

 

俺は大勢の見物人がいる中、顔中に返り血を浴びたセシルを押さえつけて、自分の屋敷まで引きずって行かなければならなかった。

 

噛まれること10回。

 

(追記)この日を境に、ハイウィンド家はモンスターを飼っているという噂がバロン中に広まった。

 

 

 

3月30日

 

 

セシルの皮膚病はみるみるうちに治った。

トイレのしつけはわりと早く出来た。

昔飼っていた犬と同じやり方で成功した。

 

鎖も首につなぐだけにした。

 

水浴びはいまでも力ずくでやっている。

道具を使える分俺のほうが強いので、逆らっても無駄だとわかったらしい。

風呂場ではぶるぶる震えながら大人しくしている。

 

意外と賢いのかもしれない。

いまでは、馬小屋から出して屋敷の中につないでいる。

 

夜の遠吠えだけはいつまでたっても直らない。







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