@セシル

 

 

ぼくの世界にある青は空の色だけだった。

 

母さんの背中に乗って飛ぶ空の色。

それはじっと見ていると引き込まれそうで、怖い色だった。

きょうだいの中で1人だけ飛べないぼくを、母さんはいつも守ってくれた。

 

ベッドは栗色の羽毛で出来ていて、食事だって豪華。

ぼくが小さな狩りを自分で出来るようになると、母さんはつやつやしたくちばしで肩をつついて褒めてくれた。

巣から出たいと思ったことなんか一度もなかった。

 

 

「ダイブイーグルが人間を育てていたのですか、隊長」

 

「・・・・他にどう説明する?そいつは巣の中にいたんだぞ」

 

ここはどこだ?

 

ぼくは見知らぬ場所で手足を縛られ口を塞がれて檻の中に入れられていた。

突然巣を荒らされて、めちゃくちゃに暴れたことは覚えている。

 

「隊長、血が出ています」

 

「ひっかかれた」

 

「今回の任務はモンスターの駆除です。そいつもついでに片付けたほうが・・・」

 

目の前の二人が何を話してるかなんて、もちろん分からない。

この時まで人間というものを見たことがなかったからだ。

 

ここはどこだ?

 

金色の頭をした男が近づく。男だっていうのは匂いで分かる。

彼はぞっとするような青の甲羅を身につけていて、目は真冬の空の色だった。

 

引き込まれる・・・こわい。

 

「おびえるな。俺の名はカインだ。母親を殺してしまったことを謝らなければならん。代わりといっては何だが、お前を人間の世界に戻してやるからな」

 

ごろごろと喉を鳴らしているようにしか聞こえない男の鳴き声。

この音を聞いて炎を思い出す。

ぼくの森とぼくの家族を焼いた炎だ。

 

この男がぼくの世界を壊した。

この青が。

 

「ここは俺の家だ。なに、すぐに慣れるさ。元は人間だったのだからな」

 

いつかきっと、お前を噛んでやる。




(2008.1.10)



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