「戦場でのケフカはまったくの役立たずで、わしは手を焼いたもんだ。」

シド博士がぽつりぽつりと話し出した。

 

博士の温室は新種の植物でいっぱいで、私もいつも通り世話を手伝う。

「上官だったわしの言うことは聞かんし、せっかくの魔法も自分が暑かったり寒かったりした時しか使わない。
レオをお守りにしていたのだが、いつの間にかホモセクシャルの関係に持ち込まれ、あれは…」

「ちょっと待ってシド博士、軽く流したけど今なんと」

 

「当時のケフカは男にも女にも不思議ともてていた。今では結婚したくない男No.1の座を不動のものにしているが…」
 

ケフカは常習していたクスリの影響でぼうっとしているか自信過剰になっているかのどっちかで、それを理解するにはレオは若すぎた。

ふたりは愛し合っていたわけではなくて、ケフカがレオをからかって遊んでる感じだったな。

レオはひどくのぼせあがっている様子で、わしは何度か注意したもんだ。

 

 

 

 

あれは戦争も終わりに近付いた夜、ケフカのコテージが騒がしいと報告があって見に行ったんだ。

きーきーと叫び声がするので中に入ると、ケフカの上にレオがのしかかっていた。

「殺してやる!…あなたなんか、死んでしまえばいいんだ…!」

 

 

・・・あんまり見たくない男同士の痴話げんかだったわけだが、それはもう鬼気迫る感じだったので、二人を引き離したわけだ。

 

自分の部隊でレイプ事件が起こったことについては、わしも責任を感じている。

 

 

 

―――はあ、そうなんですか。

 

―――まあ、そうなんだよ。

 

 

―――で、どっちが、その・・・どっちで・・・?

 

―――は?

 

―――イエ、なんでも。

 

 

 

「一体なにがあったんだ、レオ」

 

わしはまずレオから話を聞いたよ

 

泣きじゃくっていたので実に大変だった。

 

彼の手には注射器が握りしめられていて、その中には見覚えのある発光液がなみなみと入っていた。

 

「レオ、その注射器はどうした」

「パラッツオ中尉に命令されて、私が魔導研究所から盗んで来たものです。
ドアの鍵を壊して盗ってきました…」

わしは大事な抽出液を慎重に奪い返し、医療カバンの中に押し込んだ。

 

まさかケフカが抽出液に興味を持っていたとは。

 

 

「研究所は大変な騒ぎだったそうじゃないか」

 

「どうしても試してみたいと言われて・・・・断れなかったんです」

 

 

ケフカが戦場で捕虜を捕まえようと躍起になっていたことを思い出した。

 

いつもだったら無駄に殺してしまうのに。

 

 

「でも抽出液はちっとも減ってないぞ」

 

「注射を試すための捕虜が手に入らなかったので、中尉は私の体で試そうとしたんです。無理矢理注射を打たれそうになったので・・・思わず・・・私は・・・」

 

「・・・だから言っただろうレオ、ケフカはお前を利用しているだけだと」

 

 

「―――ぼくを抱きたくないの?」

 

「―――言うことを聞いてくれたら、ご褒美をあげるよ」

 

 

 

レオを操るのは簡単だっただろうな。

 

あんなに恋愛ごとに純情な男はそういない。

 

ケフカにとって誤算だったのはレオが真剣すぎたことだ。

 

 

以降、あの二人が同じ部隊に就くことはなかった。

 

 

 

「マルケス隊長、パラッツォ中尉が診察を拒否しています」

 

 

いつもは小さな負傷でもぎゃーぎゃーとわめくのに珍しい。

 

ケフカは半裸のまま、コテージの中で半分くらい放心していた。

 

 

「中尉、肩が外れているようだ」

 

「うるさいな・・・」

 

「レオは軍法会議にかけられ処罰を受けることになる」

 

「やめて・・・」

 

「かばうことないだろう?」

 

「・・・恥ずかしい・・・」

 

 

そんな羞恥心があるとは思わなかったが。

 

わしは医者でもあるので、彼の肩の脱臼を放っておくわけにはいかなかった。

 

「蒸留酒なんだが飲めるか?」

 

それは手術用の麻酔が切れた時に使う酒で、実際に麻酔は切れていたのだが、ケフカは素直に飲んだよ。

 

彼がアルコールを一切受け付けない体質だったとは知らなかった。

 

ケフカはあっさり意識をなくして、肩の関節を元に戻した時もぴくりとも動かないほどだった。

 

 

「中尉?死んだのではないだろうな」

 

わしは心配だった。

 

と同時に興味もあった。

 

なにせ目の前に大嫌いな男が倒れ込んでいるんだ。

 

わしより一回りも若いくせに勝気で、研究では常に一歩先んじられていた。

 

あちこちに裂傷や打撲の痕がついた薄い体を見ていると、わしの中に一つの欲求が生まれたんだよ。

 

 

「そんなに抽出液を試したいなら、自分の体で試してみるか、ケフカ」

 

 

科学的欲求だったのかもしれないし、個人的な恨みだったのかもしれん。

 

わしはレオのような有能な若者をたぶらかしたケフカが憎かったんだ。

 

 

 

ケフカの腕は実に刺しやすかったよ。

 

色が白くて透き通っていたからな。

 

 

・・・魔がさしたというには結果が酷すぎた。

 

わしは恐ろしくなって、以後、誰にもこの話をしないようにした。

 

 

「この事実を知っているのはおそらくケフカだけだろうな」

 

わしのしたことでレオ将軍の将来は守られ、ケフカは狂人になった。

 

このことは一生をかけて償っていこうと思っている。

 

 

 

私は、無言のままパチパチと余計な枝葉を切り取る作業を続けていた。

 

足元にはたくさんの葉が落ちている。

 

「・・・なんでうそつくの?シド博士」


(2008.6.16)


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