「私は何度かケフカと同じ部隊で共に戦ったことがある。」

 

レオ将軍が語る。

 

軍の食堂で遅い夕食をとっていた彼は、わたしにもワインを注いでくれた。

 

もう人はまばらで、秘密の話をしていても聞かれる心配はないだろう。

 

 

「あれは私が18の時だったからケフカが23か・・・」

 

月明かりに赤く浮かぶベクタの空を窓から見上げる。

 

「それは、ケフカが魔導注入を受けた年ですね」

 

「そうだ。当時の彼は非常に優れていたが、すでに変わったところもあった」

 

 

 

 

 

戦場では、いつもフリルのついたシャツ一枚だったよ。

 

・・・ズボンは、はいていたがね。

 

彼は常に丸腰で行動し、荷物だけが多かった。

 

 

「せめて鎧を着てくださいパラッツォ中尉、危険です」

 

「うるさいなあ、君は。」

 

 

ケフカは部隊のナンバー2で、私は彼のお守り役だった。

 

この時代からお守りが必要だったんだよ、彼は。

 

弾丸が降り注ぐ最前線にいても悠然と歩いていた。

 

ほふく前進は服が汚れると言ってな。

 

 

「ぼくは生まれつきツイてるから大丈夫」

 

 

―――で、弾、当たらなかったんですか?

 

―――不思議と。

 

 

それでも、当時のケフカはとても魅力的な人間だった。

 

戦場では勇敢で、怖いものを知らない様子。

 

当時彼だけが魔法を使えたということもあったが、強力な戦力だった。

 

そして話は機知に富み面白かったし、信じられないことに優しかった。

 

 

「中尉は言語学の博士なんでしょう、実戦が多すぎるんじゃないですか」

 

「旅先で本を読むのもいいもんだよ」

 

 

私は、若く自信に満ちたケフカに魅了されていた。

 

・・・恋をしていたと言ってもいい。

 

 

 

―――ぶ!!

 

―――私の顔にワインを吹かないでくれ。

 

 

―――あ、あの、レオ将軍?今の話は冗談ですよね?

 

―――いや、君には知っていて欲しい。私が犯した罪は取り返しがつかないんだ。

 

 

 

ある夜、報告のために宿営地のコテージに入ると、ベッドの上でケフカが注射器をもてあそんでいた。

 

中の液体は透明で、淡く発光しているようだった。

 

 

「パラッツォ中尉、それは・・・」

 

「シド博士の研究室からぼくが盗んで持ってきた。魔導の力の抽出液だとか。」

 

 

「研究所は大変な騒ぎだったんですよ!なんでそんなことをするんです」

 

「鍵が開いてたからさ。」

 

 

ケフカは苦々しく液体を見上げる。

 

 

「12年だ!ぼくが生きてきた半分以上の時間。ぼくはそのすべてを古代文字の解読に捧げてきた。こんな注射一本でその知識が得られるなんて、馬鹿げてる!」

 

壊してやろうと思ったけど、つまらなくなってやめたんだ、彼はそう言って注射器を寝台横のテーブルに置いた。

 

「なあ、レオ、その注射をぼくに打ってくれないか?」

 

「え?」

 

「試してみたいんだ。正確に言うと、シドの研究を否定したい。その注射を打ってぼくに何も変化が起こらなければ、ぼくの勝ち。そうだろ?」

 

「私には・・・」

 

 

そう言いかけてふと、魔導研究所で働く友人の言葉を思い出した。

 

「・・・まだ人体実験は認められてないんだ・・・」

 

「・・・当然だよ・・・」

 

「・・・あの注射を打たれたマウスを見たぜ。のたうち回ってた・・・」

 

「・・・ひきつけ起こして、きーきー叫んで・・・」

 

 

ああ、私の罪というのは、美しいケフカの顔がひきつり、苦痛に歪むところを見たかったこと。

 

私はどうしてもその欲求に勝てなかったんだ。

 

結果は予想以上だった。

 

私は恐ろしくなって、彼を置いて逃げ出した・・・

 

 

 

「・・・その後のケフカは、君がよく知っている通りだよ」

 

わたしの手元のワインはすっかりぬるくなっていた。

 

レオ将軍の言うことが信用できないのは初めてだった。

 

 

「レオ将軍は注射を打っただけで、ケフカに指一本触れていないんですね」

 

「ああ。シド博士に助けを求めに行って、戻ってきた時にはもう彼の意識はなかった」

 

考えをまとめようとワインを飲むと、なぜか血の味がした。


(2008.5.27)


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