Aティナの記憶

 

 

私の中の一番古い記憶は、ある音色。

 

たくさんの人の悲鳴で、その中には私の泣き声も混ざっている。

 

私は、転んで抱き上げられる。

そして、甲高いブーツの足音と銃声。

 

キーンとしたそれらはやがてつるのように収束して、ひとつの悲鳴に変わる。

 

その人の叫びは、人間が死に際に発した悲鳴とは思えないほど美しかった。

 

その人の名はケフカ。

 

 

ケフカはあのときに死んだのだ。

 

だから私は、死後の彼しか知らない。

 

 

 

「ケフカの化粧は、私が三角形の計算を覚えたころに始まりました。」

 

「何歳だったか・・・」

 

「ゆっくりでいいよ、ティナ」

 

 

「・・・・はじめは撃たれたときにできた顔の傷跡を隠すためでした。あの、肌色の・・・・」

 

「コンシーラー?」

 

「そうです、そうです。そんなに目立たない傷だったのに、彼はとても気にしていました。」

 

「自意識過剰だと思った?」

 

「いいえ」

 

「なぜ?」

 

「彼はとてもきれいだったから」

 

 

 

仲間たちに治療を勧められて来た。

 

皆それぞれに心に重荷を抱えたまま旅を終えてしまった。

 

私の場合はこうやって人に話を聞いてもらうことで解放される。

 

仲間にも話したことのない話。

 

 

 

「では、最初の記憶に戻るよ。」

 

彼なら絶対に口外しないから。

 

「はい」

 

「君は叫んでいたんだね、なんて?」

 

「背中が痛いって」

 

「それはなぜ?」

 

「背骨に穴を開けられたから」

 

「骨髄移植の話だね」

 

「ケフカは、そんなことは自分にはできないと言っていました」

 

「思い出してきたね、ティナ」

 

「解雇されたんだと思います」

 

「そうだね」

 

「何日かして、彼が私の病室に来ました」

 

「夜中にだね」

 

「そうです、こっそり連れ出して・・・家に連れて行くと」

 

「それはどこ?」

 

「遠い国から来たんだと言っていました」

 

「それはどこ?」

 

「・・・・・わかりません。思い出せないんです」

 

「君は知っているはず。そこにずっと住んでたんだよ。」

 

「彼の故郷・・・・」

 

「そうだ、ケフカは必ずそこに帰っている」

 

「今もいる?」

 

「必ず」

 

 

それなら会いに行きたい。

 

懸命に記憶をたどっていくと、あの悲鳴が聞こえ始める。


そして自分の声。


「お兄ちゃんをたすけて、ティナなんでもするから!」 

その晩のうちにわたしは2度目のサンプルを採られて、何日も意識を失くしたのだ。 





「思い出すんだティナ、そこは彼が盗み出した宝の山だ。研究結果・・・・実験結果・・・・髄液のサンプル・・・・もう一度帝国を立て直すこともできるだろう」

 



「すいません・・・・思い出せないんです皇帝陛下」




ケフカは叫び続ける。






(2008.4.26)

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