ここは、試練の山山腹。

 

モンスターなどすっかり絶滅してしまった。

 

ハイウィンド、ハーヴィ両氏が2日と置かず駆逐作戦を繰り広げた成果だ。

 

今では観光地として発展し始めている。

 

試練の町などと呼ばれているが、試練的要素は何もない、平和な温泉町だ。

 

ちなみに温泉を掘り当てたのも両氏である。

 

 

そんな温泉町に建てられた新築物件。

 

男2人で住むには無駄にでかい。

 

「おはよ、カイン」

 

ちゅ。

 

「ん・・・もうちょっと・・・」

 

「だめ、今日はお仕事でしょ、起きて起きて。」

 

「近所のオバさんたちに軍隊式トレーニングなんかもう教えたくない」

 

ぼくたちが一緒に暮らしだして、3年になる。

 

ローザとの結婚は長く続かなかった。

 

ぼくが押しかけ女房よろしく、試練の山に住むカインの下を訪れたからだ。

 

あの時のカインは驚いていたな。

 

「コーヒーも淹れたし、目玉焼きも作ったんだよ。サラダのドレッシングは手作りだし、カインの好きなロスティも焼いたんだ」

 

「・・・俺を太らせる気だな、セシル」

 

ぼくを受け入れてくれた時のことを思い出す。

 

いっぱいキスしてくれたことも。

 

好きだと言ってくれたことは一度もないけど、いいんだ。

 

今まで「可愛いセシル」っていう言葉と、「俺のセシル」って言葉をもらってるし。

 

カインの言葉は、たからものだから。

 

 

「他に何か要る?ジュースとかデザートとか何か甘いもの・・・」

 

「そうだな、じゃあこれを・・・」

 

ぐい。

 

「わっ、何するんだよ、ダメ・・・ッ」

 

突然ベッドに引き込まれて、バランスを崩す。

 

エプロン、濡れてるのに。

 

「食うか」

 

 

「んう・・」

 

「やっぱりお前は甘いな」

 

唇をふさがれては、何も言えない。

 

ぼくの中の宝箱に、またひとつカインの言葉が入った。



(2007.8.7)


NEXT小説目次に戻る