一滴・・・二滴・・・

 

セシルの中に流れ込んでいく液体。

 

「僕・・・やっぱり死にたくない」

 

緑色の瞳いっぱいに涙をあふれさせて、彼がささやく。

 

「怖いんだ・・・」

「執行人と口を利かないように!」

 

セシルの死刑執行日は思った以上に早く来た。

彼に与えられるのは、薬物点滴による速やかな死。

 

死刑場は、俺が想像していたよりずっと清潔で、病院の一室を思わせた。

真っ白な壁の一面だけがガラス張りで、隣の部屋から見物ができるようになっている。

 

セシルの死を見届けに来たのは、担当検事と2,3人の看守だけだった。

・・・・セシルを弄んだ連中だ。

 

「僕が死んだら、月が見える丘に埋めて欲しい・・・・どうか・・・」

「黙れ」

 

頬を伝う幾筋もの涙をぬぐってやりたかったが、俺にできるのは、主治医に調合させた薬が正しく効くよう祈ることだけだった。

 

俺は、全身黒ずくめで、仮面を被っている。

死刑執行人の衣装だ。

 

「・・・・・・う・・・・・・うう・・・・・・・・・」

青ざめていくセシルを間近で見るのは辛かった。

 

 

「オイ、医者。死んだぞ。」

「どれどれ・・・・うん、止まってるね」

「午後5時30分、予定通り執行っと。」

「もう解散していいですよ」

「執行人さん、死体を死体置き場まで運んどいてくださいな」

「分かった」

 

 

バロン城の地下はジメジメとして、蒸し暑かった。

こんな所に死体を置けば、2日と経たずに腐乱するだろう。

辺り一面に死臭が漂う。

 

「このまま本当に死んでしまったら・・・・」

 

俺は何をしているんだろう?

たまたま知り合っただけのコイツに何故ここまで?

 

・・・・薬を取り替えただけだ。

・・・・生きるチャンスを与えてやっただけだ。

 

俺はこのまま屋敷に戻って、いつも通りの生活を続ければいい。

セシルはここに放っておけばいい。

目が覚めたら、自分で勝手にどこにでも行くだろう。

 

コイツは虫けら。

社会の最下層にいくらでもいる。

俺が踏みつけて歩くためだけに存在している奴らと同じだ。

 

それなのに。

 

なぜ俺はセシルの傍を離れられない?

青白く硬直した手を握ったまま、バカみたいに待ち続けている。

 

セシルの目覚めを。









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