ファブール近くの森。

偏屈な武器職人が集まって村を作っている。

 

村一番の鍛冶屋のオヤジはこの頃、住み込みのお手伝いさんを雇えるほどに潤ってきている。

戦争特需というやつだろうか。

もっとも、そのお手伝いさんというのは年端も行かない少年で、タダ働き同然だったが。

 

 

「こらオシル、お汁に毛が入ってるぞ!この毛はどこの毛だ!」

毛むくじゃらのオヤジが、明らかに自分の毛らしいものを手に持ち怒鳴る。

 

「あらあんた、オシルにはまだそんな毛生えないでしょ、ハハハ 脱がしてみなきゃ、アハハハ」

 

オシルは日々屈辱に耐えていた。

下品な鍛冶屋夫婦も大嫌いだった。

 

すべては弟のため。

 

赤ん坊を連れた12歳の少年を雇ってくれる職場はそうない。

 

「ぼくは大人になったら、すげえカッコイイ名前に変えるんだぜ、セシル」

セシルの銀髪を梳きながら語りかけるオシル。

 

仕事を終え、羽虫が彷徨う屋根裏で弟の世話をするひと時が、唯一心休まる時間だった。

 

「んあ〜?」

 

弟のセシルは発達が遅れ気味で、2歳だがほとんど話せない。

 

「ご〜、べ〜っつぁ」

 

「あ?なんて、セシル?」

 

セシルはこのとき、鍛冶屋夫婦が食べていたベーコンピザが食べたいと必死に訴えていたのだが、兄には正しく伝わらなかった。

 

「“ゴルベーザ”?お前、ゴルベーザって言ったのか?なんて独創的でへヴィでブルータルな名前なんだ、お前が思いついたのか、すごいぞセシル!」

 

こうしてオシルはゴルベーザ卿への第一歩を踏み出したのだった。


(2007.8.20)










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