「妊娠したんだ、君の子を」
「まさか」
試練の山の頂上は曇っていた。
どんよりとしていて、湿った空気が肌にまとわりつく。
山まで押しかけてきたセシルの横で俺は落ち着かず、もぞもぞと身じろぎばかりしていた。
「男が妊娠するはずがない」
「・・・ぼくは月の民だもの」
セシルはこれ見よがしにマタニティドレスに身を包み、しきりに腹をさすっている。
俺は、彼のぽっこりと出た下腹が気になって仕方ない。
「・・・何ヶ月だ」
「7ヶ月目に突入です」
計算は合わないこともない。
「・・・ローザの子じゃないのか?」
「どういう仕組みで?」
「どうって・・・こう・・・逆流するような方向でだ。ローザならやりかねん」
「ぼくたちは潔白です。結婚してても清い仲です。空気感染した上に逆流したとおっしゃるか」
セシルの静かな怒りがマックスに達していることをひしひしと感じる。
早く現実を受け入れろと横顔が訴えている。
「この子の名前はセオドアにするよ。僕の幼名のマシッセオと君の幼名のドアラを組み合わせて」
「待ってくれ!そればっかりは待ってくれ!」
俺は泣いて頼んだがセシルは取り合わない。
「出産には立ち会ってくれるね!」
「ああ、もちろん、ああ、もちろん!」
「お父さん教室にも出てくれるね!」
「もちろんだよハニー。だからセオドアだけはセオドアだけはやめてくれ!」
「ああ、よかっ・・・・はうっ」
その刹那、セシルの腹が一段と膨らみ、彼はもがき苦しみだした。
陣痛が始まったらしい。
「ひっひっふーーーー」
「奥さん、ここで産まないで!」
「手握ってカイン、手を握って!ぼく怖い!」
「セシル分かった、しっかりしろ、俺がついてる!だから、セオドアだけは産まないでくれ!!」
・・・そこで目が覚めた。
試練の山は相変わらず全く人の気配がない。
夢の中でセシルの手を握り締めていた左手にはチョコボの足が握られている。
きつく握られてチョコボは憤慨気味だ。
数ヶ月後に、セシルとローザの間に子供が出来たという知らせを受けた。
こっそり様子を見に行ったら、セシルは聖母のような顔で赤子をあやしており、
その腕に抱かれた子の目は俺にそっくりだった。
俺は柱の影に震えながら立って天に祈った。
呼ばないでくれ、呼ばないでくれ、その子の名を。
「いい子だねえ、セオドア」
俺はその後、おそろしさのあまり何年もバロン城に近づくことが出来なかった。