エドガーさんの暴走
思い出す。
美しい客人がフィガロに来たあの日。
「この城は埃っぽい。レディはまず入浴を済まされた方がよいでしょう。」
「にゅうよく?」
「おふろです」
そのふわふわした美少女は浮世離れした風情で、抱きしめれば折れそうな腰は目算で58センチほどだった。
「私、ひとりでお風呂に入ったことがないの」
爆弾発言だった。
私は2秒後にはブーツを脱いでズボンの裾を折り返していたが、無粋なトレジャーハンターに止められた。
「使用人がいるだろう、エドガー」
ロマンを解さない男め。
ティナと名乗ったその少女は、姫君でも大富豪の娘でもなく、ただ1人の男の異常な執着心のために
年頃の娘が知っているはずのことを何一つ知らずに育っていたのだ。
敵ながら良い趣味をしていることは認めねばならぬ。
残念なことに、それから一度も私はティナの入浴を手伝ったことはない。
彼女はひとりでお風呂に入る方法をもう覚えてしまったのだろうか。
ああ、だとしたら何という世界的損失だろう。
「ああ、ダメダメティナ、動いちゃ」
「いやん、だってシャンプーが目に入るのセリス」
聞こうと思って聞いたわけではない。
このような安宿にレディを泊めるなど、そもそも私は反対していたのだ。
バスルームの声が筒抜けではないか。
「ケフカはそんなに乱暴にしなかったわセリス」
「ご、ごめん、ティナ痛かったかい」
聞き耳を立てたわけではない。
ちょっと耳たぶの熱を壁で冷まそうと思っただけだ。
なんとティナは体を洗ってくれる代わりの人間を見つけていたのである。
私がぺったりとひっついた壁の向こう側からは、実に楽しそうな2人の会話が・・・。
「ティナのここのあれ、増えてきたね」
・・・どこのなにが増えてきた。
「そんな所とかさなくていいわよ、セリス」
・・・どんな所をとかしている。
「ティナ、もうすぐ誕生日だね。新しいのココに欲しくない?」
・・・セリス、コラー。
「私、ヒモがいいわセリス」
・・・なんということだ・・・。
清純な顔をしてヒモを欲しがるとは、何という嬉しい教育を施してきたのだ。
ケフカ・・・敵ながらあっぱれな男・・・
「こんな所で何鼻血出して伸びてるの、色男」
「ほっといて10歳児」
その年のティナの誕生日には、フィガロいちの下着職人に総レースのヒモぱんつを作らせた。
ピンクのと白のと、ブラックと。
「イチ押しはブラック」というカードと共に。
なぜセリスに血祭りにあげられたのかは分からなかった。
ただ、しばらくしてティナはヒモの髪飾りをつけて歩くようになった。