カインが女の人と一緒にいるところを見た。

その人は見たこともないような赤毛で、あれは多分染めてるなあとぼくはうつろな気持ちのまま考えた。

2人はくすくすと笑いながら話し込んでいる。

カインはぼくの前でしか見せないはずの優しい顔をしていて、時々あいづちをうつ。

ふとカインがぼくに気付き、大股で近づいてきた。

「お前は何も見てないよな、セシル」

彼が大きな手でぼくの目を塞ぎながら言った。

「うん・・・見てないよカイン」

 

 

「あの赤毛はダムシアンの有力者の娘だよ。彼女と結婚したら財産も軍事力も手に入るんだろうな」

同期の友人たちが話しているのを聞いた。

「カインが狙っているらしい」

くつくつと笑いながら仲間の1人が言う。

「あいつはバロンを抜ける気なんだよ。」

後ろからカツカツと足音がして、友人たちが一斉に席を立つ。

「お前は何も聞いてないよな、セシル」

誰もいなくなった部屋で、カインがぼくの耳を塞ぎながら言った。

「うん・・・聞いてないよカイン」

 

 

「ぼくが暗黒騎士になると決まった時、君は一緒に逃げようって言ったよね」

背中合わせのベッドの上でぼくは言った。

「バロンを抜けて二人でどうやって逃げ切れるのってぼくは相手にしなかった・・・金と力が要るって君は言ったよね」

すぐに手に入れるから待ってろって、あの時カインは言った。

「本気だったなんて思わなかったんだ」

彼が寝返りを打つのを感じる。

「でも・・・カインが他の人といる所を見るのは、ぼくにはとても・・・」

「言うなセシル」

カインの手が僕の口を塞いだ。

「・・・ヒクッ」

君は勝手だ。

 

 

ぼくの背中の傷はすっかり塞がった。

カインがぼくにくれたのは自由と真新しい家。

彼は赤毛の奥さんと一緒にいる姿をぼくに見せたことも、家の話を聞かせることもない。

だからぼくも何も言わない。

「どうしたセシル、顔色が悪いな」

カインが白いシーツに寝転ぶぼくを見下ろしながら言った。

「彼女の匂いがする」

君は完璧に隠してるつもりなんだろうけど。

カインは顔色をなくして、怒ったように僕の鼻を噛んだ。



(2008.9.21)


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