私は鎧を着た男の人が異常に好きなのです。

正確にいうと鎧が好きなのです。

竜騎士伝統の式典に出席するために、初めて鋼鉄の鎧を身につけたカインが私の初恋でした。

あの重々しさ、拘束感、無機質感・・・それまで「近所のお兄ちゃん」でしかなかったカインがなんと男らしく見えたことでしょう。

私は思わず胸がときめいて、彼こそが自分の運命の相手だと悟ったのです。

残念ながらカインは鎧を脱いだ瞬間に「近所のお兄ちゃん」に戻りました。

 

それから少し長じた私は、とんでもない話を耳にしました。

幼なじみのセシル君が、鎧を皮膚に直接打ち込まれたというのです。

話を聞いただけで私の心臓は早鐘を打ち、血圧は急上昇。

私はもう、いてもたってもいられずセシル君を見舞いに行きました。

 

「おおセシル、なんてことなの、ちょっと背中を見せてちょうだい。

おおこれなのね。おおイエス!」

そこから先は何と言ったのか覚えていません。

舞い上がっていたからです。

そしてセシル君こそが自分の運命の相手だと悟り、何年もの間彼の背中を見て過ごしました。

 

しかしそれも、ファブール城のクリスタルルームで奇跡の甲冑と出会うまでのことです。

セシルの鎧とはまったく違う素材で出来ていて、ごきぶりのようにテラテラと美しく黒光りしていました。

「お前がセシルか」

鎧が何か話しましたが、私の耳には届きません。

私は釘付けだったのです。

なんというテラテラ。なんという巨大さ。

 

「そんなにこの女が大事なら・・・・」

甲冑の冷たい腕がふわりと私を抱き上げました。

金属の重苦しい匂いとガチャガチャという音に私は酔いしれ、そして運命の相手は実はセシルではなかったかもしれないと思い始めたのです。

 

「お前はこの女見張りをしていればよい、カイン」

そう言い残して彼は去りました。

行かないでテラテラ。

ああ、もっと早くあなたに出会えていたら。

でももう遅い。

私はセシルにあんなことやこんなことをしてしまったのです。

私はセシルで我慢、セシルで我慢なのよ。

 

「助けに来たぞ、ローザ!」

「セ・・・・・セシル・・・・??」

助けに来たセシルは軽装でした。

兜もなく、2の腕はむきだし。

あれだけ恋していたセシルが一瞬で「幼なじみのセシル君」に戻りました。

 

これは一体どうしたことでしょう。

その後の私は流れでセシルと結婚することになったわけですが、

カインを失い、テラテラを失い、セシルの暗黒も失った今となっては、私の絶望を理解してくれる人は誰もいません。



(2008.9.29)


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