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男はブラックジャック号のルーレット盤を眺めながら、作りたてのジン・リッキーを飲んでいた。
深酒は体に悪いだけだが適量のアルコールはツキを呼ぶと昔から固く信じていた。
「嫌な客が来たんじゃない?セッツァー」
常連客の女が耳打ちする。
彼女がアゴで示した先を見ると、そこにはガストラ帝国の高級官僚が立っていた。
「これはケフカ・パラッツォ腰巾着さまではないか。遠くから見たことがあるよ。
皇帝がいなくても一人で歩けたんだな。」
セッツァーはケフカという男に歩みよりながら目一杯の嫌味を投げつけた。
こいつら帝国のせいでカジノの運営が思うように行かなくなったのだ。
「口の利き方に気をつけろよ、チンピラ」
カジノの入り口でケフカがイライラと言う。
近寄ってみると彼が想像していた以上に小柄で華奢であることに驚いた。
口汚くののしる顔は変な化粧が施されているがとても美しい。
(ジン・リッキーで酔っ払ったのだろうか?)
「カジノを禁止すると言いに来たのなら・・・」
セッツァーはそう言って、切れ味のよさそうなカードを何枚かテーブルから引き抜く。
「違う違う、そうじゃなくて、ぼくはアレをもらいに来たのだ」
「アレ?」
「アレだよ」
ケフカがどこか言いにくそうに目で訴える先には景品交換所があって、
いわゆる世界のレアグッズがずらりと並んでいた。
大体の客はキャッシュに換えるので冗談のようなコーナーなのだが。
「水のはごろもならコイン300枚と交換だ」
「違う、その下の・・・」
目線を落とした瞬間セッツァーは腹筋が壊れそうになったが、かろうじてプルプルと耐えていた。
そこには<ブラックジャック号限定・ミシディアうさぎ縫いぐるみ>が置いてあったのだ。
(そういえばこの男は人形遊びが趣味だとかうわさで聞いたことがある。
ぬいぐるみも集めているのか?)
ケフカがごそごそと懐から紙幣を出して言う。
「コイン5枚とは100ギルくらいか?払うから、そのうさぎさんをよこせ」
(今「うさぎさん」って言ったよ!シュガー!!)
セッツァーは大空に向かって叫びたい気持ちをグッと我慢した。
そして、一瞬で恋に落ちたのだ。
「残念だがシュガ・・・お客さん。こちらの景品はカジノで遊んだ人だけに渡しているんだ。」
「なんだと?ぼくはそんな低俗な遊びなどしたことがないぞ。」
「では、初めてだからこのプラチナコイン100枚を貸してあげよう。」
恋するセッツァーは誰にも止められない。
100枚のプラチナコインを押し付けられて困っている顔も可愛らしいと思う。
帝国官僚相手に愛のイカサマ勝負など、久しぶりにワクワクした。
「え・・・じゃ・・・じゃあ、ここに全部・・・・(?)」
勝負は一瞬でついた。
ケフカはよく分からないままルーレットの一点買いをして、見事にスッたのだ。
テーブルにポンと置かれた100枚のプラチナコインが彼の目の前でかき取られて行く。
「・・・・つまらん。」
美しい眉がひそめられるが、おそらく本人は何が起こったかよく知らないに違いない。
「さあ遊んだぞ、うさぎさんをよこせ。」
案の定、まだ言っていた。
<セッツァーの攻撃>
「君は何を言っているのかねケフカ。プラチナコインは1枚1万ギル。
君は今さっき100万ギル負けたのだよ。払えるのかね。」
「・・・・あ?」
ようやくハメられたことに気付いたケフカの顔がみるみるうちに怒りで真っ赤になって行く。
<ケフカの反撃>
「なんだ、それくらい・・・!」
彼は怒りに震えながらも、金色に輝くカードを取り出した。
帝国エキスプレスカード(通称・帝ックス)である。
(なんてこったい、払えるのかよ。あのカード限度額なさそうだぜ・・・!)
セッツァーは一気にびびってしまった。
「だ、だめだよ、ここではカードは通用しない。帝国VISAカードもダメ。
いつもニコニコ現金払いでお願いしている。」
完全に引き際を見失い、悪あがきをしてしまう。
セッツァーはギャンブルの罠にはまりつつあった。
(ジン・リッキーなんか信じた俺がバカだった。明日あたり魔導アーマーに焼かれるかもしれん)
および腰になった彼は、ミシディアうさぎさんをさっさと手渡して逃げる算段を考え始めていた。
「じゃ・・・ぼくはどうしたらいいんだ・・・?」
予想に反してシュガーは戸惑っていた。
心なしかもじもじして見える。
羽根の折れた天使にも見える。雨に濡れる子猫にも見えた。
ということで、がぜん調子づいたセッツァーが言う。
「体で払ってもらおうか」
「なに・・・!?」
「大丈夫、大人しくしていたら悪いようにはしない」
「ちょ・・・待・・・・!」
<240行略>
「・・・これで勝ったと思うなよ!」
乱れた髪を直そうともせず、彼は乱暴にドアを閉じて行った。
セッツァーが1人残された部屋のテーブルには空のグラスが2つあって、1つには赤い染みがついている。
「ジン・リッキーのツキを使うんじゃなかったなあ・・・」
彼はケフカを真面目に口説かなかったことを悔やんでいた。
ぼんやりと起き出し、染みのついたグラスにジンを注ぐ。
なにかで割る気も起きずにそのまま飲み下すと、ジン特有の松脂に似た匂いと一緒に口紅の香料を感じた。
「遊ぶ相手にするには惜しすぎる・・・」
セッツァーはケフカが忘れていったミシディアうさぎをぎゅうっと抱きしめて、
このぬいぐるみを彼に渡す方法について思い悩んだ。
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『ケフカ苑』より一部抜粋
ジン・リッキー【Gin Rickey】
①ものすごく嫌な思い出のある飲み物。
②ジン45ml+フレッシュライム1/2+ソーダで作る辛口のカクテル。
※SUPREMIST9では、長年の研究の結果1ギル≒35円というレートを導き出しています。ポーションたっけえ^^