あんな奴の墓を建ててやるなんて、彼女の気が知れない。

 

捕らえられて操られ、悪に汚されたというのに。

 

「ねえ、セッツァー、私のこと愛してる?」

 

「・・・ああ」

 

「じゃあ、私が彼を愛しているのも分かってくれる?」

 

分からない。

 

ティナはまだ愛という感情をよく理解していないのだと思う。

 

「手伝わないでね」

 

細い腕でさくさくと土を掘り返していく。

 

これではいつまでかかるかわからない。

 

彼女のかたわらには、赤い布に巻かれた人型。

気味が悪くて近づきたくない。

 

「棺には入れないのか?」

 

「・・・彼、狭い所が嫌いだったから」

 

崩れた塔の残骸の中で、それは意外に簡単に見つかった。

体がほとんど完全に残っていたのは奇跡的だった。

顔の半分はなくなっていたが、表情まで見分けることが出来た。

 

笑ってはいなかった。

 

「前の化粧は落として新しくメイクし直したの」

「ええ?」

 

死体の顔に触ったのか?

俺は近づくのさえ嫌なのに。

 

「きれいよ、見る?」

「冗談じゃない」

 

ますますティナが理解できない。

 

「彼、私のことを「きれいなお人形」って言ったの」

 

うん、大体想像つくよ。

 

「私が寂しくて泣いてる時は一緒に泣いてくれた」

 

・・・きんもちわりい。

 

「それから、これ」

 

ベクタ産の大きなりんごを取り出して齧るティナ。

 

彼は食が細くて全部食べることが出来なかったの。

だから、こうやって私と半分ずつ食べたのよね。

 

ティナはそう言って、しゃりしゃりとりんごを噛む。

俺は軽いめまいを感じていた。

 

「あなたも食べる?」

 

「いや、俺は・・・」

 

そう言いかけて、彼女は俺に言ったんじゃないことに気付いた。

ティナは赤い布の隙間にりんごを差し入れていたのだ。

 

サクッと音がした気がした。

 

「美味しい?」

 

・・・早く彼女に本当の愛を教えてあげないと。

 

でも俺には自信がなかった。

 

死体と話すティナの横顔があまりにも女らしく慈愛にあふれていたからだ。


(2007.11.30)






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