「セシルと仲良くしてやってくれ」

国王陛下に言われたのならば仕方がない。

俺は初めて会ったときから、このひ弱な子供が大嫌いだった。

 

「俺が遊んでやるから有り難く思え。だが、この線から中には入るなよ、ビョーキが移るからな。」

実際、彼は病弱であり、相手をしている間は外に出て遊ぶことなど出来なかった。

週に一度はひどく咳き込み、真っ赤な血を吐く。

俺は、このころからすでにセシルが苦しむ姿を見るたびに妙に気分が高揚していたことを覚えている。

 

「間もなく、ご臨終です。」

13か14の時、セシルはついに倒れた。

やっと死ぬんだ。

せいせいした、これで気兼ねなく毎日外で遊べる。

だがその一方で、セシルが苦しむ姿を見られなくなるのは残念だった。

 

「セシルを死なせるわけにはいかぬ」

嘆く国王が一体何を言っているのか、理解できなかった。

 

「いけません陛下、それだけは。」

「禁じられた太古の呪術には違いないが、セシルの命をつなぐことは出来る。」

俺は部屋の片隅にいて、死の床に就くセシルを見下していた。

枕元には暗黒の魔術について口論する大人たち。

「こわいよ、カイン」

セシルは恐怖のために目を見開いていた。

「・・・セシルが助かるなら、なんでもしてください陛下。俺は、セシルが死ぬのは嫌です!」

俺がそう言ったのは、セシルをもっと苦しめたかったからに他ならない。

 

ここから先の数時間のあいだに彼に加えられた虐待を思うと、その場に居させてもらえなかったことが悔やまれる。

セシルは古代の儀式にのっとって背中に上位文字を刻まれ、そこに焼けた金属を流されたと聞く。

いにしえの暗黒騎士として生まれ変わったのだ。

 

「カインはどうしてぼくを助けたんだ。あのまま死なせてくれたら・・」

20歳になるころには、セシルは立派な狂戦士になっていた。

今や彼は鎧によって生かされる操り人形であり、呪われた鎧は終りなく敵の血を欲し、これからも欲し続けるだろう。

「お前を愛してるからさ」

にっこりと笑ってやる。

戦場で敵を切り殺しながら、一番よく血が吹き出る動脈について考えた。

終わりのない苦悩、尽きることのない戦争、殺し、底のない絶望、狂気、みんな俺の愛するもの。

 

お前には、もっと苦しんでもらいたい。

死にたがる花に水をやるように、セシルに敵の血を浴びせた。

彼の顔が青ざめていく。

今こそが、俺の望んだ未来だった。


(2008.7.16)


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