「愛してるわカイン」
何度も繰り返し言ったはずの言葉なのに、今ではその意味もよく分からなくなってきた。
その恐ろしい声は、夜眠っている時でも、昼起きている時でも聞こえた。
「・・・・愛せ。美しい娘よ。セシルを愛せ。」
何言ってんの。
私、ああいう後ろ向きな人ダメなの。
なんか常に自嘲気味だし、自分のことを「ぼく」とかいうし。
むりぽ。
それが恐ろしい呪いだということに気付くのに、時間はかからなかった。
「セシル・・・今夜、あなたの部屋に行くわ」
やめて。
何を言わせるのよ。
カインがどこかの物陰から聞いているわ。
彼は嫉妬深いのよ・・・私がセシルに心変わりしたと思い込んだら、きっと殺し合いになるわ。
私が愛しているのは、天にも地にもカインただ一人よ。
でも、なぜなのか、その想いは誰にも伝えることができなかった。
カインを前にするとまるでサイレスがかかったように世間話しかできない。
日を追うにつれて、彼の顔に死相が現れ始めた。
でも、カインはきっと信じてくれているはずよ。
だって、あんなに愛し合っていたんだもの。
「セシルなんぞより俺のほうが上だということを教えてやる」
ダメ、この人、完全に自分の世界に入っちゃった!
どうして信じてくれないのよ、私には呪いがかけられているの。
カインは私のNO.1よっていつも何回も言ったじゃない。
「・・・もう、カインのバカバカバカ!」
「・・・ああ、すまなかったな、バカで」
なんで、こんなセリフだけは口にできるの。
どうやったら私の気持ちを伝えることができるの。
・・・・
「きっと来てくれると信じていたわ、セシル。抱き抱き」
なんか、もう・・・
「アナタがいなかったら私・・・・スリスリ」
だめぽ。
絶対に信じてはもらえないわ。
「いなくなって気付いたよローザ・・・ぼくも君を・・・」
神様どうしよう、なんか最近セシルもノッてきました。
「ねえ、ローザ」
「何、リディア」
「ローザはカインのことが好きなのよね、目を見たら分かるわ」
なんですって?
小さな村の小さな広場には、私とリディアしかいない。
見上げると満天の星々が輝いている。
「そんな意地悪しちゃダメよ、ローザ」
なんて純粋な目をした人なの。
「私・・・私は・・・」
「何も言わないでローザ。何があったか分からないけど、いつかきっと全部上手くいくわよ。ちょっとくやしいけどね。信じて。」
そんな風に言ってくれた人は他にいなかった。
天使のようなその子を前に、自分の醜い心が洗われたような気がして、涙があふれてくる。
頬を伝う私の涙を、リディアはキスでぬぐってくれた。
「大好きよ、ローザ」
「私も大好きよ、リディア」
心の清い人は、目を見ただけで分かってしまうものなのね。
「俺はしょうきにもどった!」
「まって!カイン!」
「あのヤロウ、やっぱり敵のスパイか!」
・・・・出たり・・・・
「すまなかったセシル」
「いいさ、操られてたんだ」
・・・・入ったり・・・・
男たちはいつも自己完結していた。
私の目を見てすべてを知る人は当然一人もいない。
「グズ・・・ギャアアム」
「倒した!」
「やったわ・・・!」
月の地下渓谷で、私はようやく呪いから解き放たれた。
「私の洗脳も解けたわ!」
ついに解放された。
辛く苦しい日々から。
「ゼムスは私にセシルの子供を生ませようとしていたの。
なんかすごい電波を使って、その子に乗り移る気だったのよ!
私を選んだのは・・・多分ルックス的な・・・」
長く封じられてきた想いが堰を切ったようにあふれ出す。
「何言ってんだローザ、大丈夫かい?頭」
聞いてよ人の話!
世の中には惰性というものがあって、私が洗脳から解けたところで進んでしまった話はもう元には戻らなかった。
「結婚おめでとう、ローザ」
なんでよ、カインは2回も戻ってきたわよ?
こんなのおかしくない?
「さよならローザ、私は幻獣界に戻るわ・・・」
行かないでリディア。
「次会うのは15年後よ」
期限まで設けないで。
自分の意思で動けるようになったというのに、私はリディアを追うことができなかった。
心変わりを見抜かれることが怖かったから。
「ローザのバカ・・・追ってきてよ」
私の目にはリディアしか映ってないはず。
(2008.6.21)
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