雷雨となった。
風がうねり、今夜はとべない。
竜騎士ならそう判断するべき天候の中、カインは迫る未知のクリーチャー達と戦っていた。
月から大挙して押し寄せるその異生物たちは群れをなし、遠目にはまるで青き星と月とをつなぐ銀色
の橋のように見えた。
これは、月を怒らせた報いだった。
大地が揺れ、亀裂が拡がっていく。
それでも彼は無限とも思える敵を切り崩す方法だけを考えていた。
「諦めようカイン!星が壊れる!」
ローザが言った。
彼女は世界を愛している。
ローザは星の母となるべき人で、いつも正しい。
多くいた戦士達が武器を収め、事の成り行きを見守る。
それでもカインは青い狼のことを考えていた。
異国の神話に出てくる、世界の終わりに天と月と太陽を食い付くす獣。
「今こそ俺が・・・」
フェンリルとなって、世界を滅ぼそう。
「カイン、もうやめて!」
背後から鋭い青年の声が聞こえてはじめて、カインの動きが止まった。
なぜ?
離れたくないと言ったくせに。
俺に抱かれていたいと言ったくせに。
「お前も世界を取るのか、セシル?」
彼は月の民だった。
月が呼び返すなら、帰らなければならない。
「ぼくはカインが死ぬのを見たくないだけ」
セシルが月に呼ばれ始めたのは何日前だったか。
俺のそばにいたいと言ってくれたのは何日前だったか。
「・・・お前は勝手だ」
カインが槍を収めると敵たちも攻撃をやめ、ただの橋になった。
彼の片脇をするりと抜けて、セシルが橋を上っていく。
その姿が銀色の光の粒になるまで見上げていたが、セシルが振り返ることは一度もなかった。
すべての月の民を飲み込んだ月は、すっかり満足したように猛ることをやめた。
今でも月はそこにある。
カインが手を伸ばせば届きそうなほど近く。
時々月を見上げては、青い狼になる夢を見る。
(2008.5.14)
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