「とりゃあ!」

 

このごろ、リディアの様子が大変おかしい。

 

毎日毎日、買ってやった鉢植えを飛び越えている。

 

「ニンニン!」

 

さすがの俺も心配になってくる。

 

 

 

「わたし、ニンジャになりたいの。」

 

あの子がそう言ったのは何日前だったっけ?

 

「ああ、そうか、そうか。じゃあ、まずはジャンプ力を鍛えなきゃな。麻の種を買ってやっから、毎日それを飛び越えるんだぞ」

 

「うん!」

 

まあ、3日もすれば飽きるだろうと思っていた。

リディアの好奇心は子供そのものだったから。

 

 

「あんなに毎日一生懸命飛んでるのに、あの麻、全然タテに伸びないね」

 

セシルの何気ない一言がちくちくと刺さる。

 

 

あれはどこの市場だったか・・・花屋に行けば簡単に手に入るものだと。

 

「麻の栽培は禁止されてますけど。もちろん販売もしてません」

 

まさか。エブラーナじゃその辺に生えてるのに。

 

 

まあ、3日もすれば飽きるんだから。

俺はそう安易に考えて。

 

「じゃ、代わりにそのスイートピーの種でいいや」

 

せめて豆科でない植物にすればよかったと今になって思う。

 

リディアは今日も必死だ。

 

 

「ねえ、リディア、それ、スイートピーじゃない?豆っぽいわよ?」

 

いいぞ、ローザ姉さん。バカ子の熱を冷ましてやってくれ。

 

「えー?違うよ、エッジが麻だって言ったもん」

 

「でも、もう花咲いてるし・・・・」

 

「エッジが麻だって言ったもん!」

 

テラコッタ製の鉢をぎゅうっと抱きしめる。まるでそうしないとローザに取り上げられると思っているように。

いいな、鉢。

 

「エブラーナ人は皆ニンジャだって、エッジが言ってたの」

 

「リディアはエブラーナ人じゃないじゃない」

 

「・・・なるもん。私、エッジのおよめさんになってエブラーナ人になるんだもん。だから、私ニンジャになるの・・・止めないでよ」

 

つんつんと怒りながらローザを突き放し、また鉢植えを飛び始める。

 

さよなら。

 

セシルの声が聞こえた気もする。

「どこ行くんだよエッジ」

 

エブラーナ。

 

一万エーカーの麻畑を贈ってもまだ足りないと思う。


(2007.12.19)




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