「濡れて濡れて・・・びしゃびしゃだよ、もう」

 

大雨の中、セシルがひとりごちた。

 

パラディンになってから随分経つ。

 

白い鎧も連日の戦いで汚れ、傷ついていた。

 

きれい好きの彼は自分が濡れることより鎧に泥汚れがつくことの方を心配しており、雨やどりできそうな小屋を見つけたときは小躍りして喜んだ。

 

鎧をはやく脱ぎたい一心で小屋の扉を開ける。

 

もう夜なので中は何も見えなかったが、なにかの倉庫らしく奥の方にはフワフワとした草の束がたくさん詰まっていた。

 

 

鎧を脱ぎ、すっかり裸になったセシルは草の上に寝転んだ。

 

うん、悪くない。すぐに体は乾きそうだ。

「火をおこせたらな・・・」

 

真っ暗の小屋の中で独り言を言うと、驚くことに返事が返ってきた。

 

「火事になるぞ」

 

「えっ、誰かいるの?」

 

飛び起きて辺りを見回すと、ぼんやりとした人影に気付いた。

体の大きい、大人の男のようだ。

 

「こんな夜中に、土砂降りの中で何をしてたんだ?」

 

「な、仲間とはぐれて・・・」

 

正直に言いかけてセシルはハッと我に帰った。

「あんたには関係ないだろ」

 

「ふん、置いてかれたのか、いい仲間を持ったな」

 

なんだかムカつく言い方だ。自分をリーダーと認めない仲間たちを思い出して、セシルはますますムカついた。

 

「あの金髪野郎、ぼくを散々裏切った挙句”ミシディアはそっちの方向じゃない“とか言って皆を連れてっちまったんだ」

 

「じゃあ結局その金髪野郎の方が正しかったようだな。お前はこんな山奥にいるのだから」

 

ムカ。

 

「あんたこそこんな山奥で何してるんだよ」

 

「・・・・部下が来るのを待っている」

 

「そっちこそはぐれたんじゃん」

 

「・・・うるさいな。部下には亀もいるんだ、トロくさくて当然だろう。」

 

亀が部下か・・・こいつに比べたら自分はまだ恵まれているとセシルは思った。

 

暗闇に目が慣れてくると、男も裸であることに気付いた。

狭い小屋の中で裸の男が2人・・・気持ち悪いことこの上ないと思い、セシルはその辺の草の束をからだに巻きつけた。

 

「フン、裸が恥ずかしいならうちの職場じゃ働けないな。うちには裸族の女がいるんだ・・・誘ってるのかと思って手出そうとしたら竜巻が起こってな・・・」

 

長くなりそうだ。

 

「・・・ツンデレというのか?なかなか落とせないものだな・・・」

 

いつも太ももをチラ見せして、かまってもらいたい素振りの男の部下は無視しているという。

 

「うちの女たちも似たようなもんだ。どっちもレオタード。あんなに見せられるとむしろ萎えるよ・・・緑の方は最近大人になったばかりで色んな毛の処理を知らないみたいだし」

 

「うわっ、それサイテイね」

 

「だろ。白は白で自分の方がいい女でいたいから緑に何も教えないわけ」

 

「女が2人いると色々あるんだなあ、うちは1人だからまだいいか」

 

こんな感じで雨があがるまで語り合ったふたりはすっかり意気投合したが、まだ暗いうちに別れたのでお互いが敵同士だということに気付くことはなかった。

 

 

「どこ行ってたんだよ、セシル」

 

ミシディアで落ち合った金髪野郎は相変わらずエラソーだった。

 

「心配したのよ、セシル」

緑の女が言うが、レオタードから覗く未処理の毛が気になって仕方ない。

 

セシルがいつものようにひとりごちた。

「あの男が仲間だったらなあ・・・」

 

後にセシルの願いは一瞬だけ叶うことになる。


(2007.9.22)



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