バロンには、1年に一回だけ大嘘をついてもいい日がある。
バロン王立兵学校においても然り。
これは、カインが18歳、僕が17歳のみぎりに起きた出来事である。
「カイン大変だ!セシルが身売りさせられるらしい!」
「ええっ?チョコボファームにか?」
・・・・とカインが言ったかどうかは知らない。
カインはチョコボファームの労働条件の悪さにいつも心を痛めていた。
彼は、竜騎士にならなかったらチョコボの飼育員になっていたと真顔で打ち明けたことがある。
第2の夢だったらしい。
とにかく、このウソに僕は全く加担していなかった。
知らない間にネタにされていたのだ。
カインが悪友にすっかり騙されたことも知らなかった。
悪友たちがカイン相手に男娼とは何か娼館とは何かをイチイチ教え込んでいる様が今でも目に浮かぶ。
僕を呼び出した時、カインは激しく思いつめた顔をしていた。
「セシル、話がある」
「なに?」
・・・・ジージージー・・・・
日曜日の朝。
学生寮の裏庭には、僕らの他には誰もいない。
丘の上に寮があるので、裏庭はバロン中が見渡せる絶景ポイントである。
だがその日は夏の朝というのにどこか肌寒く、バロン城は霧で見えなかった。
「俺は、兵学校を卒業したら、竜騎士団に入ろうと思っている。」
「うん、知ってるよ?」
何の話なんだろう?
僕はカインの真剣な顔を真っ直ぐ見えない。
あまりに綺麗で、カッコよくて、息が詰まりそうになるから。
「お前は?」
「ぼく?僕は・・・・」
「やっぱりいい!それ以上言うな!」
カインが何か悪い考えを振り払うように言った。
突然、力いっぱい僕の肩を掴んで、僕を見据える。
・・・・宙に浮くかと思った。
その目はいつも通り澄んだ碧眼だったが、深い悲しみを湛えているようだ。
「お前、本当にそれでいいのか?その道を選んだこと、後悔してないか?」
「え・・・?」
カイン、知ってたんだ・・・・・。
僕が暗黒騎士になること。
僕は、既に陸軍への入隊が決まっていたが、成績優秀者として暗黒騎士候補生に登録されたばかりだ。
このことは学校の先生と国王くらいしか知らないはずなのに・・・・・。
「僕だって、好きで選んだ道じゃないよ・・・・本当はイヤでイヤでしょうがない」
「イヤだったらやめればいいだろ!」
僕はムッとした。
「カインに何が分かる?僕には自分をここまで育ててくれた恩義があるんだ!国王の命令を聞くのは当然だ!」
「バカヤロー!」
バキー!
歯が折れた。後で医務室で生やしてもらおう。
「お前はそんなに安い男なのかセシル!自分が・・・自分の身が、どうなるか分かってるのか!?」
「・・・・・・・」
カイン・・・・・。
僕なんかのことを、ここまで心配してくれる人が他にいるだろうか?
僕自身でさえ、どうにでもなれと思っていたのに。
嬉しさと歯の痛さで、泣けてきた。
「ウッ・・・ウッ・・・」
「・・・・!す、すまんセシル・・・・本気で殴るつもりは・・・・」
「僕だって、怖くて仕方ないんだ・・・・・たまには遊びに来てよ、カイン・・・・グスッ・・・・・きっと、僕、カインの顔が見たくなると思うから」
暗黒騎士は孤独だ。
「え・・・・・?遊びに・・・・・?イヤ、俺は・・・・・そんな趣味は・・・・・・・」
大仰に戸惑うカイン。
「イヤなの!?カイン、僕のこと、そんなに嫌いだった?それとも(暗黒に)汚れた僕には近づくたくないの?」
我知らず、僕はカインにしがみついていた。
僕には泣きながら懇願することしかできなかった。
「遊びに来るくらいいいでしょ?僕、カインに来て欲しい!ねえ、行くって言ってよ、カイン!」
カインは、約1分間地面を見つめ、
「・・・・・・・・わ、分かった・・・・・・・!」
と言った・・・・・・。
「何笑ってるの、セシル?」
「ん・・・・、なんでもないよローザ」
残念ながら、今僕が同じベッドで寝ているのはカインじゃない。
あの時のカインは本気で僕を抱くつもりだったのかな・・・・・。
「・・・・・カインのウソつき」
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