「俺の前から姿を消せ」
あんなに優しかった私の恋人が言った一言。
最後まで理由は言ってくれなかった。
そうして私がカインと別れたのは17歳の時だった。
「本当にローザはセシルが好きなの?」
不思議そうな友人の一言。
カインへの当てつけに彼の親友に近づいたのは、私のプライド。
仮面を被って生きていこうと思ったのは18歳の時だった。
「俺は君にそばにいてほしかったんだ」
カインの一言に私は混乱した。
私を遠ざけたのはあなたじゃない。
私のせいでカインが裏切り者になったのは19歳の時だった。
「結婚おめでとうローザ」
誠実な青年との結婚。
愛はなかったけれど、カインを忘れるためには仕方なかった。
後戻りできなくなったのは20歳の時。
「カインはローザの異母兄なんだよ。ぼくは知ってた」
「どうして教えてくれなかったの!」
「どうしてって・・・カインに言われたからだよ。俺はローザと結婚できないから、俺の代わりに彼女を頼むって」
涙が止まらない。
「ぼくは・・・ぼくだって君のことを・・・」
被り続けてきた仮面が壊れていく。
「ご気分は?王妃さま」
いつものように牢番が聞く一言。
悪くないわ、ここから出してもらえれば。
夫に監禁されたのは21歳の時だった。
「ローザ・・・」
私の葬儀にカインは来てくれたのかしら?
遺言どおり、私の墓石はガラスで作ってくれたのかしら?
私が知っているのは、焼かれてすっかり白くなった私の骨をカインが集め、生涯手放さなかったということだけだ。
(2007.11.14)
小説目次に戻る