「へいか、ぼくのお願いきいてくれる?」

 

「なんだいセシル、欲しいものがあったら何でも言いなさい」

 

「・・・ぼくね、赤い翼が欲しいの」

 

「うーん、それは難しいお願いだなあ。セシルはまだ若すぎ・・・・」

 

「ぼく何でもするよ・・・?」

 

「おお、そうかそうか・・・そうだなあ・・・」

 

陛下にこんなことしたくない。

陛下には何の恨みもない。

陛下が寝静まったベッドで、衣服を正しながらそう思う。

 

 

「上手くいったかセシル?」

 

「もちろんだよ、カイン。言われた通りにしたよ・・・ぼく、陛下と・・・」

 

「言うな」

 

悪い男を好きになってしまった。

それは分かっているんだけど。

 

深夜のバロン城は月明かりだけに照らされていて、
ぼくたちの歩く通路は冷たく凍っているようだった。

 

「ぼく、もう自分の部屋に帰りたい」

 

「俺も行く。楽しませてくれよ」

 

「・・・どうしてそんなことが言えるの!人でなし!」

 

自分の口から出た言葉とは思えなかった。

気付けばぼくは叫びながらカインの胸を叩いていた。

 

ひとでなし。ひとでなし。

ぼくはさっき陛下に抱かれたんだよ。

カインがそうしろって言ったから。

ぼくは汚れた。

カインのせいだ。

 

広い通路に響く自分の声が痛々しい。

 

 

「お前は俺のものだろ!」

 

カインがぼくの腕をつかんで締め上げた。

 

「い・・・っ」

 

「自分のものをどうしようと俺の勝手だ!俺は世界を手に入れたい。
そのためには赤い翼が必要なんだ。イヤなら俺から逃げればいい・・・フッ、お前には無理だろうがな。」

 

「カイン・・・どうして・・・?」

 

どうしてこんな男を好きになったんだろう。

 

「世界も、赤い翼も、お前も、全部俺のものだ。分かったな?」

 

青白い城の通路で唇を奪われながら、ぼくは呆然としていた。

体の感覚がなくなっていくような気がする。

 

「うん、分かってる・・・」

 

これからカインと共に地獄に落ちていくんだ。

 







(2007.10.7)





小説目次に戻る